バンクーバーで行われた人種差別デモについて
シャーロッツヴィルでの悲劇が大きなニュースとなったすぐ後で、8月19日にカナダのバンクーバーで白人至上主義者による反イスラム・反移民デモが行われると知った時は正直、世も末だなと思いました。
バンクーバーといえば、北米の中で移民に対する差別が最も少ない街の1つだと思っていました。自分が住んでいた街なので多少のひいき目もあるかもしれません。もちろん差別が全くないわけではありませんし、個人的にも知らない人に嫌な扱いを受けたことも一度ではありません。でも、本当に移民が多い街ですから、人種差別的なデモに参加する人なんてほとんどいないはずだと考えていました。
バンクーバーは移民が多い
ではバンクーバーにはどれくらい移民が多いのか。一口に「移民」と言っても様々な解釈がありますが、白人至上主義者団体が排斥を訴える対象としての移民はヴィジブルマイノリティー、いわゆる非白人を指します。少し古い情報ですが、2011年に行われた国勢調査では、バンクーバーの人口のうち53.8%が非白人である*1という結果が出ています。つまり、人口の半数以上が非白人です。2016年に行われた国勢調査の結果のうち、移民・エスニシティに関わるデータは今年の10月に公開される予定ですが、これまでの傾向から、2011年よりも非白人の割合が増えていると考えられます。
反イスラム・反移民デモの首謀者
地元紙によるオンラインニュースなどを見て、この反イスラム・反移民デモを企画しているのがWCAI CanadaとCAPという団体だと知りました。さらに調べるとWCAI CanadaのオフィシャルTwitterアカウントだと思われるアカウントがとんでもないツイートをしていることもわかりました。当該アカウントへのリンクは行いませんが、以下のツイートにスクリーンキャプチャが貼ってあります。
This group is holding a WCAI Canada/CAP rally in Vancouver this Saturday outside City Hall at 2pm. #bcpoli #altrighthttps://t.co/SegCWEpRYL pic.twitter.com/BnrHnAeR30
— Alison Creekside (@CreeksideAlison) August 17, 2017
この「1488」という数字の「14」は、英語で14語から成る白人至上主義のスローガンを指す隠語です。「14」とか「14 words」とかで調べると詳しい内容がわかると思います。そして「88」は「ハイル・ヒットラー」を意味する数字です。
デモに対するバンクーバー市長の反応
バンクーバーのロバートソン市長は、このデモに先駆けて、デモが行われる当日には、市警と市庁舎のセキュリティスタッフを動員して安全を確保すること、また、バンクーバーはヘイト・レイシズム・差別を一切容認しないと述べています。そしてそれだけでなく、市民に対してレイシズムとヘイトに反対の声を挙げることが重要だと呼びかけています。*2
なお、在バンクーバー日本国総領事館は、危ないのでデモが行われているエリアには近づかないように、という注意喚起のメールを在留邦人に送信していたようです。
当日の様子
シャーロッツヴィルの事件があったので一体どうなってしまうのか心配していましたが、当日は反イスラム・反移民デモにごく少数が参加(事前にFacebookイベントページで参加を表明していたのは30人にも満たなかったようです)した一方で、カウンターデモには4,000人ほどが参加して、人種差別デモを圧倒するという結果になりました。ヘイトスピーチを続けたデモ参加者などは市警が輪の外へと連れ出していったため、けが人などもなく終わったようです。しかも、反イスラム・反移民デモの首謀者は当日午後2時からスピーチを行うと表明していたにも関わらず、 現場に現れず取材にも回答していないのだそう。
当日の様子は以下に貼っている記事に詳しく書かれています。現場の写真や動画を含む、記者によるツイートも多数あります。
トルドー首相ではないですが、バンクーバーやるじゃん!と言いたくなります。
Way to go, Vancouver. Diversity will always be our strength. 🇨🇦https://t.co/gqijqVF3aY
— Justin Trudeau (@JustinTrudeau) August 20, 2017
今回はこのような結果に終わり安心していますが、ごく少数ながらもやはり移民に強く反対している人たちや白人至上主義者がいるというのもまた事実です。そもそもカナダに住んでいる白人はみんな移民なので、白人が移民排斥運動なんておかしな話なのですが。
さて、長くなりましたが、最後にカウンターデモに参加していた友達がInstagramに投稿していた非常に力強いメッセージを紹介して終えたいと思います。写真の2人は、私がカナダに移ってまだそれほど経っていない時期に知り合ったメキシコ人とアメリカ人のカップルです。2人ともバンクーバーで修士号を取り、就職し、結婚して、カナダに移民しています。写真とともに投稿されたキャプションを読んで、深く胸を打たれました。写真の下に日本語訳もありますので、ぜひ読んでみてください。
私たちは移民の夫婦です。この国で出会い、恋に落ち、結婚しました。この国に住むことにしたのは、カナダの基本的な価値観とこの国に住む人たちを信頼しているからです。
今日のカウンターデモに参加することについては、複雑な気持ちを抱えていました。それでも参加を決めたのは、実際に現場に行って、この街にヘイトは存在すべきでないと考える人たちに対して連帯を表明することが重要だと思ったからです。また、私たちは2人とも移民ですが、反移民団体がこの国から出て行ってほしがっているのは、私たちのうち片方だけだと知っているからでもあります。
いま私にできるのは、ここに居続けること。IT業界で働く有色人種の女性であり続けること。表に出て、公共の場所を走り続けること。メンターシッププログラムに取り組んでいる若い女性たちを励まし続けること。そしてシンプルに、私に来てほしくないと考える人たちがいる場所に姿を現し続けること。ただ姿を現わすだけです。生活そのものを抗議行動にしましょう。
※8/23 追記
写真の友達がGoogle翻訳を使ってこの記事を読んでくれて、「(それぞれ違う国から来た)私たちのような人間が友達になって、互いの文化について学べるのはカナダのすばらしい点の1つ」とコメントをつけてFacebookでシェアしてくれました。
私たちはそれぞれメキシコ人と日本人で、それぞれ国や文化に違いはあるけれど、お互いを尊重し、違いから学び、共通点があることを知って楽しむことができる友情を築くことができました。それは多様性を当然のことと捉える風潮によって育まれたものだと思います。
バンクーバーには人種差別を支持する人よりも、彼女のような人の方が圧倒的にたくさんいるのだと信じたいです。ごく少数の人種差別デモに対してカウンターデモに4,000人集まったことが、その証拠だと私は思います。
*1:興味のある方はぜひ参考資料としてWikipediaページの脚注に多数あるリンク先をご確認ください。
*2:詳しくは Mayor Robertson encourages counter-protest ahead of far-right rally - NEWS 1130 を参照してください