「Unceded Territory」とは何か

カナダに戻ってきて気付いたことの1つ。ギャラリーオープニングなどのイベントに参加すると必ずと言っていいほど、冒頭で次のような挨拶が行われます。

 

We would like to begin by acknowledging that the land on which we gather is the unceded territory of the Coast Salish Peoples. 

 

ざっくり言うと

 

「はじめに、我々が集っている土地は先住民の土地であることを認識しましょう」

 

という内容。

 

最初は「unceded」が「unseated」に聞こえて「???」と思っていたのですが、後で気になって調べてみたら「cede」(=譲る、譲渡する)に接頭辞の「un」がついた言葉で、つまり「譲渡されていない」という意味でした。

 

カナダはイギリス・フランスをはじめ、様々な国から人が移り住み発展してきましたが、もともとは先住民族の土地であって、移り住んできた人々に対して土地が正式に譲渡されたわけではないことを認識すべきである、という挨拶です。

 

調べてみたら、バンクーバーでは2014年に市議会が「バンクーバーはファースト・ネーションのMusqueam、Squamish、Tsleil-Waututhの土地の上にあり、この土地は条約、戦争、降伏のいずれによっても譲られたものではない」という公式声明を発表していました。

globalnews.ca

 

政治的なイベントなどでは、2014年ごろにはもう、こういった挨拶が行われていたようです。それが広まっていって、私が遊びに行くような音楽やアートなどのイベントでも定番になってきたのでしょう。2015年からしばらく東京に住んでいて、昨年末またバンクーバーに戻ってきたので、私がバンクーバーにいない間にどんどん広まっていたみたいです。

 

もちろん教育機関でも導入されていて、Canadian Association of University Teachers(カナダの大学教員団体)が『Guide to Acknowledging First Peoples & Traditional Territory』というガイドを発行しています。

 

(ここからPDFが閲覧できます:https://www.caut.ca/sites/default/files/caut-guide-to-acknowledging-first-peoples-and-traditional-territory-2017-09.pdf )

 

このガイドではカナダ国内のさまざまな大学が使っている挨拶の表現が読めて、なかなか面白いです。

 

大学キャンパスのある土地によって、どの民族が本来所有する土地なのかが変わりますので言及している民族の名称も違いますし、サスカトゥーンでは「unceded territory」ではなく「Treaty 6 territory」と言っています。

 

これは「番号付きインディアン条約」と呼ばれる、カナダ自治領成立後にイギリスの国家元首とカナダの先住民族との間で締結された第1~第11までの条約の、第6条約を締結した土地であるという意味だそうです。

 

ちなみに、以前夫がモントリオールの友達にこの話をしたら「モントリオールでは全然そういう挨拶聞かない」と言われたみたいです。

 

州によっても先住民族に関する考え方や政策などが異なると思います。そのあたりは今後詳しく調べてみたいと思っています。

 

さて、ここでおもむろに宣伝ですが、現在クーリエ・ジャポンでカナダに関する連載記事の翻訳を担当しています。全9回の連載で、実はあと1回で終わってしまうのですが(本日、最終回の原稿を納品いたしました)その第3回でファースト・ネーションの視点を取り上げています。

 

もともとMaclean'sというカナダのメディアに掲載されているエッセイで、2017年のカナダ建国150年を記念し、ジャーナリストのアレン・アベルがカナダ国内のあまりよく知られていない土地を旅し、現地の人々にインタビューをしながら「カナダ人であること」の意味を探るという内容です。

 

この仕事を通して、カナダについて知らなかったことを本当にたくさん学び、自分がいかに何も知らずに移住してきたかということを実感しました。今カナダに住んでいる方やこれからカナダに住んでみたいという方にはとても興味深い内容だと思いますので、ぜひ読んでみてください。

 

courrier.jp

 

元の文章がとても美しいので、英語でもOKという方はぜひ原文を!

www.macleans.ca